紅と蒼の契約



200年の契約を交わす。


蒼い瞳をもったものは忌み嫌われ、その者が20になった時生贄へと突き出される。
生贄になった者は沼に住む龍へその身を捧げる。

紅い瞳をもったものは選ばれし者。その者が20になった時魔王との契約を交わすことができる。「力」を持った魔女とされる。

黒い瞳をもったものはその結果を見守るだけ。国を治める為の『力』もなく、静かに自らの人生を歩む存在。紅い瞳でも蒼い瞳でもない人は黒い瞳。所謂一般人というもの。


200年に一度、龍の導により、紅い瞳の女、蒼い瞳の女、魔王になるべき男が生み出される。蒼い瞳の女性はまた200年後の為に生贄に。魔王と紅い瞳の女性は契約を交わしてから生涯を終えるまで世界を支える柱となる。 古からの契約。不変。


そう…今までは…。




魔王が生まれてからもうすぐ20年がたとうとしていた。
そう、今年は選ばれし年。200年に1度の契約の年。
本来ならば、この時期になると、どこもかしこもお祭り騒ぎになるのだが
今年は違った。
どこにも祝いの言葉は書いていない。
それどころか、みんな元気がないように見える。


生贄を捧げる契約の沼の近くに立つ豪邸。
魔王となるものが生まれる家。
通称魔王城。そこで一人の青年と、年寄りの男が話していた。


「なりませぬ! なりませぬぞ!!!
貴方はこれからこの国を治めてゆかれるのですぞ!!」


年寄りの男が青年に叫んだ。青年は耳をふさいでいる。
青年、ジェランド。彼こそが今年20の歳を向かえ魔王を受け継ぐもの。
真っ黒の髪に深紅の瞳。魔王になるものもまた深紅の瞳をしている。
本来ならそろそろ紅い瞳の女性を嫁として迎える時期なのだが、その女性に問題があった。

「…でかけてくる。」


一言残し、ジェランドは年寄りの男性から離れていった。
その後ろ姿を男は悲しそうな瞳で見ていた。



魔王城から少し離れたところに森がある。
契約の沼へと繋がっている森。その森の中に小さな家がひとつ。
家というには小さすぎる。小さい真新しい建物。
そこには一人の少女が住んでいる。


真っ黒な髪。真っ黒な服。そして

――――紅い瞳。もう片方は蒼い瞳。

魔女として、力のある選ばれし者であり、生贄となる嫌われ者でもある。
オッド・アイ。それも紅と蒼を両方持ち合わせてしまった。
そのため、生みの親から愛されることもなく、虐待を受け、最終的に捨てられた。
笑うことも泣くことすらも忘れてしまった少女。


「……リィ。」


声に反応して彼女は顔をあげる。自分に名前をつけてくれた人。
自分の事を名前で呼ぶ唯一の人。
それが彼。ジェランド。


彼女の瞳を見て嫌がらずに目を見て話しかけてくれたのは彼。
彼女に住む場所を与えてくれたのも彼。
彼女にとってはジェランドが全てであり、彼の幸せを願う。
彼が幸せになる為には自分が龍との契約を交わす生贄になること。
彼の前から自分が消えること。
それが彼の幸せであり、これからの未来の為。そう思っている。

「あと…3日です。」


ジェランドが魔王になるまであと3日。
リィが生贄か嫁になるかが決まるまであと3日。
もちろん魔王一族は反対。街からの声も反対しかない。
ジェランドはいつもそんなことは関係ないと言う。リィと契約を交わすことを決めている。
リィは自分のせいで反感はかってほしくない。自分は生贄になると決めている。
お互いが無言になってしまう。


「リィ、散歩でもしよう。今日は快晴だ。」


普段この家から出ない彼女を無理矢理つれていく。
もちろん散歩といっても森の中だけ。


「あと…3日。もし私が純粋な紅い瞳だったなら
こうして貴方とずっといられたのに…。
私が純粋な碧い瞳だったなら貴方の事を好きになることもなかったのに。」

「瞳の色なんて関係ない。ずっと一緒だ。」


それは誰に何を言われるよりも嬉しい言葉であり
何よりも残酷な言葉。
それでも今だけは二人の邪魔をする者は何もなかった。


散歩を終えて、ジェランドとリィは小さな家の前で別れた。
また明日会おうと約束をして。

しかしそれが叶うことはなかった。



翌日。魔王城ではジェランドが拘束されていた。
扉は先代魔女の力により、封鎖され、城から抜け出すことができなくなっていた。

「…どういうことでしょうか母上?」


黒に限りなく近いワインレッドの色をした瞳の女性。
ジェランドの母であり、先代魔王と魔女の血を引き継ぐもの。
選ばれし魔女ほどではないが、その力は町ひとつ沈めることができるほどである。


「…どういうことでしょうは私の台詞です。
貴方またあの出来損ないのところへ行っていたそうね。
あんな化け物には近づくなと前々から申しているはずですが。」

「…化け物じゃない。一人の女性だ。」


扉を開けようと試みるがジェランドの力では解放できない。
力任せであけようとしても扉はびくともしなかった。


「…でかけたいのですが?」


実の母親をにらみつける。
実の母親もまた息子をにらみつける。


「森へ行ってももう誰もいませんよ?」

「…どういう意味です?」

「あの化け物は私が昨日沼へと移動させました。あと2日。
2日後には自ら生贄になると言ってました。」

「…瞳の色ってのはそんなに大事なのか? 同じ人間じゃないか!」


母親の胸倉をつかむ。
彼女の目は恐ろしいほどに冷たかった。


「貴方は選ばれたのですよ? やっとこの時が来たのです。
200年の時を経て。契約の時が来たのです。貴方はこれからの未来を作る者。
紅き魔女にお会いできなかったのは残念ですが…これも時代の変わり目ということでしょう。「力」が目覚める可能性を秘めた女性を探しています。その方と貴方は契約をしなさい。」

「契約? 選ばれた?
そんなものはいらない。時代の変わり目なんだろ! なら彼女でも何も問題はないじゃないか!」

「紅い瞳の女性はもっとも「力」に優れている。しかし黒い瞳にも可能性を秘めている人はいる。代わりはいるのです。
蒼い瞳の女性はもっとも呪われているものです。そして龍が好む色。
これは代わりはいない。彼女もまた選ばれたのですよ。蒼をもつものとして人生を終える。
誇らしいことではありませんか。」

「…そんなのばかげてる…。」


そういい残し、ジェランドは城の奥へ戻っていった。
彼の後姿を見送る母親の瞳は悲しさであふれかえっていた。



ジェランドは倉庫で本をあさっていた。
魔王について。龍について。沼について。
伝説について。呪いについて。
そして一つの本とめぐり合った。魔力で封印されている本。
ジェランドの力でもその本を開くことができた。そしていくつかの禁術をみつける。
その本をもって自分の部屋へ戻った。
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彼が魔王になるまで後1日になった。
その日の天候は雨。なかなか起きてこない彼を執事が呼びに来た。
扉を叩いても呼びかけても返事はこない。
一声かけて部屋に入ると彼はまだ眠っていた。
前日遅くまで何かを読んでいたのを知っていたので、寝かせておこうとその場を去っていった。



生贄の沼。
リィは寒さをこらえながら1日の終わりを待っていた。
もう二度と会うことのない彼を思いながら。
彼の幸せを願っているのは事実。
だけど本当は彼の言葉が嬉しくて、少しだけ甘い夢も考えていた。
まさか彼の母親が来るとは思ってなかった。


「今私の力で死ぬか、息子の為を思って自ら龍の生贄になる道を選ぶか。」


そんなの決まってる。少しでも彼のためになりたい。
生贄が逃げたらこの国の将来がどうなるのかまったくわからない。


「でも…残りの2日は…一緒にいたかった…。
それは私のわがまま? それすらも許されない。私が一体何をしたというのだろう…。」

「わがままなんかじゃないよ?」


聞けるはずのない声。思わず後ろを振り向くと彼がいる。
黒いマントに身を包んで、何か本を持っている。


「…ジェランド…何故ここに?」

「リィ、あまり長くはいれないかもしれない。よく聞いて。
母親が魔力で城に術をかけている。だから出れなかったんだ。
昨日書庫から禁術の本をみつけたんだ。」


もっていた本を見せる。かなり古い本のようで、最初のページはやぶれている。

「この本は…」


本自体から魔力がでている。おそらく一般人に扱うことはできないであろう。
扱えたとしても、本に魅入られてしまい、しまいには自我を失ってしまう。
禁術の本。


「今城の俺の部屋には俺が寝てるようにみせてある。魔力の低い人には気付かないように幻術をかけてはあるが…まず母親に気付かれたら追っ手がくるだろうな。」

本をぱらぱらめくり、ひとつのページを見せてきた。


「禁術クラスS。
人と人の体の一部を…交換するもの。
以前は医学で使われていたが、悪用されたため禁術へ。
…これが…どうかしたのですか?」

「簡単な話だ。」


彼はリィの手をとり、いつものように瞳を見て話を続ける。

「リィ、俺の瞳と君の瞳を交換しよう。」


彼の深紅の瞳と彼女の蒼い瞳が見つめあう。
手が強くにぎられる。


「…そんなこと…できません。」

「…リィ、聞いて。
龍は蒼い目の女性を好む。だが、蒼い目の男性は好んではいないんだ。
だから俺がその蒼をもらう。そして君は多少色は違うが紅い瞳になる。
そうすればいつまでも一緒にいられるだろ?」

「蒼は…不幸の象徴なのです。
貴方を不幸にするわけにはいきません。」

「蒼を手に入れても来るのは不幸じゃない! 幸せが訪れるだけだ!」

「幸せなんて…貴方はこの国を追放される。
ただでさえ私に構っていて良い顔をされていないのに…。
聞いてください、ジェランド。私貴方の為なら生贄になれる。」


にぎられていた手を勢いよく離す。
距離を少し置いてもう一度ジェランドの顔を見る。


「私、貴方のことが好きです。好きって言葉じゃ伝えきれない…
愛してます…。私に接してくれたの貴方だけだった。
いつもとなりにいてくれた。私は貴方に幸せになってほしいだけなんです。」

「幸せになってほしいなら、一緒に…」

「それは貴方にとっても、この国にとっても幸せではない。
蒼い瞳の魔女が収める国なんて破滅の始まりでしかない。
どうしてわかってくれないんですか?」

「それはこっちの台詞だよ。
じゃぁ俺にも考えがある。リィが生贄になった世界なんていらない。
リィが存在しない世界なんていらない。禁術の本に載ってる魔法で世界ごとつぶす。
リィが決めていいよ。リィが生贄になるのであればそのあと世界は破滅。
俺と瞳を交換すれば…ずっと一緒。一緒にいれる。」


空がだんだん曇ってきて、雨が降り始めた。
ジェランドは羽織っていた黒いマントをリィの肩にかけ「明日、儀式の時間にまた来る」とだけ言って去っていった。
残されたリィの頬を伝ったのは雨なのか…それとも…




翌日。
儀式の時間となる。
儀式の沼に立ち入るのが許されるのは、蒼い瞳の女性と魔王。
そして魔王の産みの母親と父親。あいにくジェランドは父を亡くしていた。


「…では始めましょう。」


本来、契約の龍を沼から呼び出すのは父親の仕事だが、いないものはしょうがない。
母親がその役割をする。
そして、その龍と200年の契約を交わす役目をするのがジェランド。

「さぁ、今こそ我らにその姿を見せなさい。沼の主よ…」

沼の上に大きな龍が現れる。身体が青白く光をまとっている。


『契約主の名を…』


魔王が前へと進む。龍の目をしっかりと見つめて。

「ジェランド。」

『…ジェランド。承諾した。』

「さぁ…ジェランド。始めなさい。」


母親に言われ、リィの方に振り向く。
無表情のまま、リィはジェランドへ近づく。
本来、蒼い瞳の女性はジェランドから契約の印を刻まれ
龍との契約を交わす。


「…リィ。どうするの?」


出来るだけ優しい笑みで問う。
「私のこと恨まないでください。私は……。」


被っていたフードをとり、ジェランドに口付けを交わす。

「私は貴方に全てを捧げます。だから…うらまないでくださいね。」

「…もちろん。ありがとう…リィ。」


ジェランドがリィの左瞳に片手をかざす。
リィはジェランドの左瞳に片手をかざす。
母親が気付いたときにはすでに二人の契約は始まっていた。
お互いが契約を交わす時、結界がはられ、その契約を止めることはできない。


「…! あれは…禁術!?」


まばゆい光に二人が包まれていく。
その光に耐えられず母親は目をつぶった。
光が収まった時には、二人の瞳が入れ替わっていた。


「龍よ、見ての通り。今年は生贄がいないんだ。」

深紅の瞳と蒼の瞳をもつオッドアイの男性が言う。
深紅の瞳と紅い瞳をもつオッドアイの女性が隣にいる。


『…二人の愛、確かに見届けさせてもらった。
半端な覚悟では禁術を使うことも契約を壊すこともできなかっただろう。
生贄をいただくよりも良いものを見せていただいた。』


そういい残し、沼に再び沈んでいった。


「………認めない…こんなの認めない!!!」


母親が叫びだした。
手のひらをリィの方へ向け、光を放った。


「死になさい!!!!」


放たれた光はリィの目の前で蒸発した。

「…さぁお義母様。紅き魔女も入れ替えの時期です。」


リィの放った光は母親に当たる。
そして母親の記憶はなくなった。

「母さん、城でゆっくり休みな。」


ジェランドの言葉で、おぼつかない足取りで城へ戻っていった。




「リィ…ありがとう。」

「…ジェランド…ずっと…一緒にいていいんですね?
私は…紅き魔女として貴方の隣にいれるのですね?」

今まで泣くことも笑うこともしなかった彼女が見せた涙。
肩をひきよせてそっと抱きしめる。

「もちろん…。ずっと一緒にいよう…。
さ、契約の続きを…」


唇を重ねあう。何度も何度も。

「…契約の続きって……」

「全てを捧げるって言ったのは、リィだよ?」

「そ…それは言いましたけど…その…ここでです…んぅっ…」


口をふさいでそのまま契約の続きを交わす。
永遠の為の契約を。



――― 不幸なんておとずれないだろ?
蒼い瞳と交換で手に入れたのは紅き瞳の魔女の笑顔 ―――












紅と蒼の契約、いかがでしたでしょうか?
ぐだぐだ感が否めません。何って題名が。
ここまで読んでくださったかた、ありがとうございます=ω=
久々のオリジナル小説。っていうか短編で小説で。ないわぁ!!!
初めてか?の勢いです。
魔女旋風第一弾って感じです!

では、本当にありがとうございました!